社員が「指示待ち」になる会社と、自分で動く会社の「差」はどこにある?【組織の自走化】
「うちの社員は自主性がない」と感じている経営者に、まず読んでほしい話。
「うちの社員、なかなか自分で動いてくれなくて困っているんです。」
経営者の方から、この組織マネジメントのご相談をいただくたびに、私は一つだけ確認することがあります。
「社員の方は、御社がどこに向かっているのか、自分の言葉にして説明できると思いますか?」
少し間があって、こんな答えが返ってきます。 「……たぶん、なんとなくはわかっていると思うんですが。」
その「なんとなく」こそが、すべての答え(原因)でした。

「自主性がない」は、社員個人の能力や資質の問題ではない
経営者が「指示待ちの社員」に悩むとき、多くの場合、原因を「その人の資質」や「やる気の問題」に求めがちです。
- 「もっと主体性のあるアクティブな人材を採用すればよかった」
- 「うちの社員はマインドが受け身なんだよね」
でも、少し立ち止まって考えてみてください。その社員は、入社する前もずっと「指示待ちの人」だったでしょうか。おそらく、そうではないはずです。
学生時代に部活を引っ張っていた人かもしれない。前の職場ではリーダーとして頼られていた人かもしれない。少なくとも、面接のときは目がきらきらと輝いていたはずです。
では、なぜ入社後に「指示待ち」になってしまったのか? それは、個人の資質ではなく、会社の「環境」がそうさせてしまったのです。
人は「目的地(どこに向かえばいいか)」がわからないとき、足を止める
少し想像してみてください。あなたが、見知らぬ街に一人で立っています。そこで突然、「どこかに行ってきて」と言われたとします。
……どこに向かえばいいでしょうか? 何も情報がなければ、人は動けません。仮に動いたとしても、「本当にこれで合っているのか」という不安が常に付きまといます。だから、ミスを恐れて誰かに「どこに行けばいいですか?」と指示を聞きに行くしかなくなります。
これが、組織における「指示待ち」の正体です。
目的地というビジョンが見えれば、人は自分で動き始めます。どこに向かえばいいかわかれば、自分なりのルート(行動)を探し始めます。途中でトラブルがあっても、目的地に向かって自分で判断できるようになります。
会社でも、まったく同じことが起きています。
「なんとなくわかっている」の落とし穴:言葉のズレが主体性を奪う
「うちの会社の方向性は、毎日一緒にいるんだから社員もわかっているはず。」
経営者の多くはそう思っています。しかし、「わかっているはず(暗黙の了解)」と「言葉として共通認識になっている」は、まったく別のことです。経営者の頭の中にあるビジョンは、明確な言葉にして伝えない限り、社員には届きません。
さらに言うと、経営者が「言ったつもり」、社員が「受け取ったつもり」でも、同じ言葉を使いながら違うことをイメージしているケースが驚くほど多いのです。
【言葉のズレの具体例】 経営者が「お客様第一で」と言ったとき、経営者の頭の中は「品質を絶対に妥協しない」という意味だった。しかし、社員は「お客様からのクレームや要望には、すべてYesで対応する」と解釈していた。
このように言葉の定義が共有されていないと、同じ方向を向いているつもりでも、行動がバラバラになってしまいます。そして、そのバラバラさを上司から指摘された社員は、「自分の判断で動くと怒られる」「動いても意味がない」と学習し、心を閉ざしていきます。
こうして、真面目な社員ほど「指示待ち」へと変わっていくのです。
「言葉」を整えた瞬間、指示待ちだった中堅社員が自走し始めた事例
以前ご支援した会社で、言葉の力を実感する劇的な変化がありました。
「会社がどこに向かうのか(パーパス)」と「うちらしい行動基準(バリュー)」を、経営者と現場メンバーで一緒に言語化したときのことです。それまで「指示待ちで受動的だ」と言われていたある中堅社員が、こう言いました。
「やっと、自分が職場で何をすべきか、明確にわかった気がします。」
方向性が言葉として整った途端、その社員は別人のように自分から動き始めました。 上司への細かい確認や指示待ちが減り、会議での発言が圧倒的に増えたのです。「会社のために、こういう新しい施策をやってみたいです」と、自発的な提案まで生まれるようになりました。
その社員の能力が急に変わったわけではありません。動くための前提条件(言葉の土台)が整っただけなのです。
「社員の自主性を育てる研修」の前に、経営者がやるべきこと
「社員の自主性を高めたい、エンゲージメントを上げたい」と悩む経営者に向けて、世間ではマインド研修やロジカルシンキングのワークショップを勧める声が多くあります。
もちろん、それらが意味を持つこともあります。 しかし、会社の向かう方向(理念やビジョン)が言語化されていないまま自主性の研修をしても、社員は「何に向かって自主的に動けばいいのか」がわからないままです。
土台なき研修は、まさに「砂の上に家を建てる」ようなものです。
自主的に動く社員を育てたいなら、順番は逆です。まず「どこに向かう会社なのか」を言葉にして、社内に深く浸透(インナーブランディング)させることです。 目的地を明確に渡してから、地図を読む力(スキル)を育てる。この順番を間違えていると、いくら高額な研修を重ねても、組織の「指示待ち」は変わりません。
あなたの会社の社員は、「目的地」を自分の言葉で言えますか?
「指示待ちの社員が多い」「組織が自走しない」と感じているなら、一度だけ立ち止まって考えてみてください。
- その社員たちは、会社がどこに向かっているかを、自分の言葉で説明できますか?
- どんな行動が「うちらしい」か、全社で共有されていますか?
- 業務で迷ったとき、何を基準に判断すればいいか、判断軸を知っていますか?
もし、その答えに少しでも迷いやブレがあるなら、問題は社員の「自主性(能力・やる気)」ではありません。
組織の軸となる「言葉」が、まだ整っていないだけです。
リハビリの現場で、体の土台が整った患者さんが「また山に登る」と自ら前を向き始めたように、企業も言葉という土台が整えば、社員は必ず自らの意志で動き始めますよ。
よくある質問(FAQ)
Q. 企業理念を言語化すると何が変わりますか?
A. 企業理念や価値観が明確になることで、採用・育成・評価・営業活動の判断基準が統一されます。社内外に一貫したメッセージが伝わることで、会社を応援してくれる「推し」が増える土台が整います。
Q. 会社の教科書とは何ですか?
A. 企業の理念、価値観、歴史、判断基準、求める人物像などを整理した組織運営の指針です。これを社内で共有することで、社員が自社の価値観を深く理解し、自走する組織へと変化します。
Q. 企業の存在意義を作るメリットは何ですか?
A. 社員の共感を生み、組織の一体感やエンゲージメント向上につながります。「この会社で働く意味」が言葉になるため、社員が自社を「推せる」ようになる最大のきっかけとなります。
Q. なぜ離職率改善につながるのですか?
A. 入社前後の期待値のズレ(カルチャーギャップ)が減り、企業文化への共感度が高まるためです。自社のリアルな想いを言葉にしておくことで、ミスマッチのない採用が実現します。
プロフィール 株式会社three jobs 代表取締役 矢間あや
「理学療法士」経験を活かし、企業の組織課題を根本から整える支援を行なっています。
公式HP:https://three-jobs.com/
コラム一覧:https://aisare-co.com/column1/

