「会社の教科書」を作ったら、会議の空気が変わる?
資料を作ったのではなく、会社の「共通言語」が生まれた瞬間の話
「先生、会議が変わったんです」
支援を始めてから数ヶ月後、ある経営者の方からそんな連絡をいただきました。
何が変わったのか詳しく伺うと、こう教えてくださいました。
「以前は、会議のたびに『それって、うちの会社としてどうなの?』という議論になっていました。同じ話を何度もして、毎回同じところで止まって。でも今は、迷ったときに『教科書にはこう書いてある』と、全員が立ち返る場所ができました。おかげで意思決定のスピードが格段に上がったんです」
その言葉を聞いたとき、私は胸が熱くなりました。これこそが、私が情報の言語化を通じて実現したかったことそのものだったからです。
「会社の教科書」とは何か
愛され企業製作所では、支援の過程で「私の会社辞典」と呼ばれるドキュメントを共に作り上げていきます。 自社の理念やビジョン、経営者の想い、創業から続く歴史と未来への方向性、どんな人と働きたいか、そして「自社らしい行動」とは何かなど。これらを、経営者だけでなく現場のメンバーも巻き込み、議論を重ねて言葉にしていきます。
大切なのは「作ること」ではなく、「一緒に言葉にするプロセス」です。このプロセスの中で、経営者と社員の間にあった見えない「ズレ」が鮮明に浮かび上がってきます。
「わかっているつもり」という一番の落とし穴
支援を始めると、必ずと言っていいほど直面する場面があります。経営者に「自社の強みは何ですか?」と聞くと、すらすらと答えが出てくる。しかし、同じ質問を現場の社員に投げかけると、全員の答えがバラバラなのです。
経営者は「みんなわかっているはず」と思い、社員は「なんとなくわかっているつもり」でいる。しかし実際には、同じ言葉を使っていても、イメージしているゴールが全く違うことが多々あります 。
このズレこそが、意思決定のたびに「そういう意味じゃなかった」「それはうちらしくない」という摩擦を生む原因なのです。「わかっているつもり」は「わかっていない」よりもずっと厄介です。なぜなら、ズレに気づかないまま走り続けてしまうからです。

言葉にした瞬間、組織の「目」が変わり始める
「会社の教科書」を作る過程で、よく起きることがあります。 経営者が自身の想いを言葉にすると、それを聞いたメンバーが「そういう意味だったんですね、知りませんでした」と驚く場面です。
経営者は「え、伝わっていなかったの?」と戸惑われますが、これは珍しいことではありません。経営者の頭の中にある想いは、言葉にしない限り誰にも伝わりません。日々の忙しさの中で、信頼構築のためのコミュニケーションが後回しになっている会社は非常に多いのです 。
しかし、一度言葉として整うとメンバーの目が変わります。
「そういうことか。じゃあ、あの案件はこう判断すればいいんだ」
いちいち確認しなくても、自分で判断できるようになる。会議で同じ議論を繰り返さなくて済む。そうして、組織は少しずつ変わり始めます。
「教科書」は、作った後から本番が始まる
「会社の教科書」は、完成して終わりではありません。むしろ、そこからが本番です。 新しい仲間に最初に手渡す。判断に迷ったときに立ち返る。営業で自社紹介も全員が同じ内容・同じ自己紹介ができる。採用の場では「うちはこういう会社です」と自信を持って語る。社外へ発信する際も決してブレない軸となります 。
これがあることで、経営者がその場にいなくても、一人ひとりが「会社の言葉」で動けるようになります。それは「依存」ではなく、自らの足で未来を切り拓く「自走」している状態です 。
言葉を整えると、人が動き出す
- 会議で同じ話を何度も繰り返していませんか?
- 意思決定のたびに、軸がブレていませんか?
- 新しい仲間に、自社の価値を自分の言葉で説明できていますか?
もし心当たりがあるなら、それは「伝え方」の技術の問題ではなく「言葉が整っていない」サインかもしれません。
眠りの状態を整えることで身体が本来の力を発揮するように、会社の言葉を整えることで、組織も本来の推進力を取り戻します。それは単なるマニュアルではなく、「この会社で働く意味」が全員の心に宿るということなのです。
矢間あや
株式会社three jobs 代表取締役
矢間あや
https://three-jobs.com/


