「いい会社」なのに、誰にも知られていない会社が多すぎる。
「謙虚さ」と「伝えないこと」は、まったく別の話だ。
「うちは、自分たちの仕事で評価していただければそれで十分ですから。」
ある経営者の方が、少し照れくさそうにそう言いました。
その会社は、客観的に見ても本当に素晴らしい「いい会社」でした。社員を大切にしていて、顧客のことを真剣に考えていて、地道に、誠実に仕事をしています。離職率は極めて低く、長年付き合ってくれている顧客も多い。
それなのに、なぜか採用がうまくいかない。新規の顧客もなかなか増えない。業界内では知られているけれど、一歩その外に出ると、ほとんど存在を知られていないのです。
「もっと情報発信した方がいいとは思うんですが、なんか、自分たちのことを大げさに言うみたいで気が引けるんです……」
その言葉を聞いて、私は少し胸が痛くなりました。 なぜなら、この会社の素晴らしい「謙虚さ」が、自社の可能性や未来の仲間との出会いを、静かに狭めてしまっていることに気づいていなかったからです。

「伝えない」は、謙虚ではなく「伝える責任の放棄」
正直に、少し厳しいことをお伝えします。 「自分たちの仕事(成果)だけで評価されればいい」という姿勢は、一見すると美しい謙虚さに見えます。しかし私には、それは謙虚ではなく、「大切なステークホルダーへ伝えることへの責任を手放している」ように見えてしまうのです。
なぜなら、「自社の想いや事実を伝えないこと」には、目に見えない甚大なコスト(機会損失)がかかっているからです。
- 求職者の機会損失:素晴らしい企業の理念やビジョン、ブランド価値’インナーブランディング)があるのに、それを知らないまま「ブラック企業かもしれない」と誤解して応募を諦める求職者がいる。
- 顧客の機会損失:自社のサービスがぴったり合うはずなのに、存在を知らないまま、他社のミスマッチなサービスを選んでしまう顧客がいる。
- 候補者の機会損失:「ここに転職したいな」と興味を持ったのに、会社の理念や判断基準が何もわからなくて、不安になって離れていく採用候補者がいる。
伝えないことで、本来出会えたはずの人と、出会えていない事態が、経営者の知らないところで絶えず起こっているということです。これは謙虚ではありません。ただの大きな損失です。
「伝わっていないこと」は、市場においては「存在しないこと」と同じ
どれだけいい会社であっても、どれだけいい仕事をしていても、どれだけ社員を大切にしていても、それが外側に伝わっていなければ、ビジネスの世界では「存在しない」も同然です。
採用候補者は、知らない会社に応募できません。顧客は、知らない会社に発注しません。
「いい会社であること」と、「いい会社だと認知されていること」は、完全に別の話です。そして残念なことに、知名度や信頼は自然に高まることはありません。 自社の存在意義(パーパス)を、意図的に、継続的に、誠実に伝え続けた会社だけに、じわじわとファン(推し)ができていくのです。
「大げさにアピールする」と「誠実に言語化する」は違う
「自分たちのことを大げさに言いたくない、盛りたくない」
その気持ちは、ものすごくよくわかります。でも、ここには一つの大きな思い込みがあります。それは「発信する=自分たちを大きく見せる(捏造する)こと」という誤解です。
誠実な企業のブランディングは、大げさである必要は一切ありません。
- 自社はなぜ存在しているのか(パーパス)
- どんな想いで、その仕事に向き合っているのか(企業理念)
- 社員がどんなやりがいを持って働いているのか(企業文化)
- どんな顧客の、どんな課題を解決してきたのか(価値提供の実績)
これをそのまま、正直に、丁寧に言葉にして伝えるだけでいいのです。 飾る必要はありません。盛る必要もありません。人間の体をリハビリで本来の正しい状態へと整えるように、ただそこにある「自社らしさという事実」を、見えるように整えるだけです。それが、本当の誠実な発信です。
「謙虚な会社」が紡ぐ等身大の言葉ほど、社会に深く刺さる
ここで少し、視点を変えてみてください。 採用に苦労している中小企業を見て、「あの会社は魅力がないからだ」と思う人はいません。多くの場合は、「あの会社のことがよくわからないから」「どんな会社なのか、働くイメージが想像できないから」応募をためらっているだけなのです。
だからこそ、誠実で、社員を大切にして、いい仕事をしている会社ほど、発信することに大きな意味があります。なぜなら、そういう会社から溢れ出る言葉は「本物」だからです。
「この会社、なんか信頼できそう。」 「この会社で、自分も一緒に働いてみたい。」 「この会社になら、安心して任せられそうだ。」
そうした深い共感やエンゲージメントは、綺麗に飾り立てた広告用の言葉からは生まれません。等身大の、誠実な言葉からしか生まれないのです。
「いい会社」の価値を言葉にし、社会へ届ける
私がこの言語化伴走という仕事を続けているのは、心の中にひとつの強い「悔しさ」があるからです。
本当にいい取り組みをしているのに、伝わっていないせいで、採用ミスマッチや深刻な採用難に苦労している会社がある。 誠実に仕事をしているのに、知られていないせいで、表面だけを飾った競合に負けている会社がある。 社員を大切にしているのに、発信していないせいで「普通の会社」と埋もれてしまっている会社がある。
それが、たまらなく悔しいのです。
謙虚さは、素晴らしい美徳です。でも「伝えないこと」は、謙虚さではありません。 あなたの会社がこれまで積み上げてきたこと、大切にしてきた価値観、守り続けてきたもの。
それを求めている人たちのために、正しく言葉にして伝える責任が、経営者であるあなたにはあると、私は信じています。
よくある質問(FAQ)
Q. 企業理念を言語化すると何が変わりますか?
A. 企業理念や価値観が明確になることで、採用・育成・評価・営業活動の判断基準が統一されます。社内外に一貫したメッセージが伝わることで、会社を応援してくれる「推し」が増える土台が整います。
Q. 会社の教科書とは何ですか?
A. 企業の理念、価値観、歴史、判断基準、求める人物像などを整理した組織運営の指針です。これを社内で共有することで、社員が自社の価値観を深く理解し、自走する組織へと変化します。
Q. 企業の存在意義を作るメリットは何ですか?
A. 社員の共感を生み、組織の一体感やエンゲージメント向上につながります。「この会社で働く意味」が言葉になるため、社員が自社を「推せる」ようになる最大のきっかけとなります。
Q. なぜ離職率改善につながるのですか?
A. 入社前後の期待値のズレ(カルチャーギャップ)が減り、企業文化への共感度が高まるためです。自社のリアルな想いを言葉にしておくことで、ミスマッチのない採用が実現します。
プロフィール 株式会社three jobs 代表取締役 矢間あや
「理学療法士」経験を活かし、企業の組織課題を根本から整える支援を行なっています。
公式HP:https://three-jobs.com/
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