エンプロイヤーブランディングとは、企業が主体となって働く場としての魅力を高めて発信する活動のことことを言います。
すでに海外では当たり前の手法になっています。
人的資本主義や健康経営などが叫ばれる中、従業員と企業の両方に快適で魅力ある職場を目指している企業は増加の傾向にあります。
エンプロイヤーブランディングは、人的資本経営を実現する上でも欠かせない要素の1つとなっています。
近年では、人材獲得の部門でよく聞かれる言葉になったのですが、単なる人事戦略だけでなく、企業としての成長戦略・経営戦略に連動した取り組みと海外でも取り入れられています。
考え方の変化や働き方の多様化など、企業を取り巻く環境が大きく変わっている今、経営戦略と連動した人事や広報戦略が、これまで以上に重要になります。
インナーブランディングや採用ブランディングとの違い
エンプロイヤーブランディングと混同されがちな言葉に「インナーブランディング」や「採用ブランディング」があります。
インナーブランディングとは、従業員に対して企業の理念やビジョン、価値観を共有し、理解を深め、共感や愛着心を持って行動してもらうための活動のことを言います。あくまで社内を対象としているところがエンプロイヤーブランディングとの大きな違いです。
採用ブランディングは、採用分野に対象が絞られることがエンプロイヤーブランディングとの大きな違いです。
エンプロイヤーブランディングには採用観点での取り組みも含まれれますが、あくまでも全体の一部でしかありません。
インナーブランディングや採用ブランディングを包含した考え方が、エンプロイヤーブランディングといえます。
人的資本経営が注目される背景
経済産業省によれば、人的資本経営とは”人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方”と定義されています。
では、なぜ今、人的資本経営が注目されるのでしょうか。
人的資本経営への転換が起きている背景には、4つの視点があると考えられています。
※講演資料より
社会的視点
持続可能な社会づくりに向けた世界的な取り組みという社会的な視点があります。
ESGや持続的な社会作りへの関心はますます高まり、株主資本主義からステークホルダー資本主義へとビジネスのあり方も変化しています。
経済的視点
一昔前は主に財務的な指標が株価に反映されていましたが、1990年代以降、非財務的な資本によって企業価値の8割が評価される方向へ変化しているという分析があります。
投資家の投資判断においても「見えざる資産」を評価する傾向が強くなっていると言われています。
戦略的視点
デジタルトランスフォーメーション(DX)を含め産業構造から変化が起きています。
先の予測が見えにくい現代(VUCA時代)はイノベーションの創出がますます重要になります。イノベーションを生み出すのはやはり「人」。
人がより健康的に快適に働く環境を整えることは戦略としても重要になります。
世代価値観の視点
自社の将来を支える若い世代(Z世代やα世代)は、SDGsをはじめ社会貢献活動に強い関心があると言われています。また、企業のパーパスやミッションやビジョンに共感して入社を決めるなど、若い世代の社会的価値観を取り入れることも、人的資本経営が叫ばれる大きな視点の1つとなっています。
エンプロイヤーブランディングで高めるべきものは、給与や待遇面や売上などの利益など「財務的な指標」ではありません。
近年は、給料や待遇面が必ずしも選ばれる理由にはならなくなっています。
企業や組織は何を大切にしていて、どこに向かっているのか、企業が従業員へ提供できる価値はなんなのか(EVP)など、自分たちのエンプロイヤーブランドを言語化して示さなければなりません。
…うちはtoB企業だから…
…うちはtoC企業じゃないから…
こんな言い訳をよく聞きます。
良い取り組みをしていれば、良いモノを作っていれば、伝えることを行わなくてもよかった時代もありました。
今まで伝える事を行って来なかった企業さまこそ「伝える」ことを本気で取り組まなければいけません。
エンプロイヤーブランディングで大切なもの
実際にエンプロイヤーブランディングを高めるためには、まずは自社の価値を言語化することからはじまります。
※講演資料より
経営者の想いや企業の歴史などから経営理念を言語化し見える化します。
また、企業側が社員に対して与えることができる価値「EVP」と言いまが、自社オリジナルのEVPを作り上げます。
ここで定めた経営理念やEVPは、この後に続く「全体計画策定」において重要な軸にもなっていきます。
エンプロイヤーブランディングの実行の注意点
エンプロイヤーブランディングを実行する際の注意点は様々ありますが、下記3つは特に重要になります。
人事部のみで行わない!
エンプロイヤーブランディングというと人事部が取り組むものだと誤解されやすいのですが、実際は様々な部門が関与し、全体的な施策として推し進めていく必要があります。
社内のさまざまな情報を扱うため、人事部以外の「伝える」ことが得意な部署が行う方が効率的な場合もあります。
エンプロイヤーブランディングの一環として、働き方改革に踏み込む場合は、現場で業務に携わる部門との連携も忘れてはいけません。
上辺だけの施策にしない!
エンプロイヤーブランディングを実行する際に「外面のみをきれいに見せる」になっていないか注意する必要があります。
上辺だけの施策は効果が上がらないだけでなく、社内外の関係者から実態の伴わない施策と認識され、マイナスな企業イメージを抱かせることになりかねません。
また入社後、様々な施策とギャップが大きいと、離職率が高くなる原因になります。
エンプロイヤーブランディングは、根本的な改革が必要になります。
伝えるを疎かにしない!
様々な施策を行ったら、社内外に伝えることを疎かにしてはいけません。
企業や組織とその企業や組織を取り巻く人間(個人・集団)との望ましい関係を創り出すために「伝える」ことが重要になります。
ただSNSをやればいい、メディアに取り上げてもらえば良いのではありません。
「伝える」は技術なのです。
引用/参考文献
・ 経済産業省”人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~”
・ OECD”人的資本:知識はいかに人生を形作るか 日本語要約”
・ 日経ESG”なぜ今、人的資本なのか 経営者を動かす4つの視点”
・ABeam Consulting"エンプロイヤーブランディングとは?社内外から選ばれる企業になるためのアプローチ"